昭和38年07月05日 衆議院 外務委員会

[028]
日本社会党(社会民主党) 戸叶里子
そこで、この前ですけれども、日本の巡視船が一応不当尋問を受けたということをこの委員会で伺いましたときに、外務省のほうの御答弁といたしましては、事情がよくわからないからよく調べたい、そして、外務大臣も、あれは公船なんだから黙ってそのままにしておくわけにはいかないのだ、相当厳重な注意を喚起させておいたということでしたが、その後のことについては何ら御報告がございませんので、その後どうなっているのか、伺っておきたいと思います。

[029]
政府委員(外務事務官(アジア局長)) 後宮虎郎
あの事件につきましては、最初わがほうの公船が韓国側の領海の中にいたのか外にいたのかということが一つの争点でございまして、先方は最初あの船が韓国の領海を侵犯したという根拠のもとに、先方のほうから領海侵犯の抗議が参りましたわけです。

それに対しまして、こちらのほうは、コンパスその他で科学的によく方位を測定いたしました根拠に基づきまして、絶対に領海の中に入っていなかった、公海におったにかかわらず、こちらの巡視艇の船長が向こうへ半ば強制的に連れていかれて尋問を受けた、こういうことははなはだ遺憾であるということで、同時に厳重な抗議をこちらのほうからもいたしまして、いまその両方の抗議が行き合ったというかっこうになっておる段階であります。

[030]
日本社会党(社会民主党) 戸叶里子
そうしますと、領海の侵犯であったかどうかということも、まだ意見の一致を見ていないのですか。

[031]
政府委員(外務事務官(アジア局長)) 後宮虎郎
そうでございます。向こうは領海の中に入っておったと申しておりまして、3海里をちょっと入りましたところの海里数を具体的に言っておるのですが、こちらは、やはり、こちらのほうの機器で測定いたしました結果絶対に入っていなかったということを主張して、その点も意見が一致していないわけでございます。

[032]
日本社会党(社会民主党) 戸叶里子
先方の領海の幅はどのくらいに考えているのですか。

[033]
政府委員(外務事務官(アジア局長)) 後宮虎郎
領海につきましては、先方も3海里説をとっております。

[034]
日本社会党(社会民主党) 戸叶里子
そうしますと日本の政府も、先ごろ日本の公船である巡視船「のしろ」が威嚇され不当尋問されたことに対しては、その判断がうまくつかないために、お互いにそのままにしてある、こういうふうに了解していいわけでございますか。

[035]
政府委員(外務事務官(アジア局長)) 後宮虎郎
その領海の中に日本船が入っていたかどうかとはかかわりなく、たとえそういうことがあったとしましても、日本の公船に対して、その公船の船長を連れていって尋問するというようなことは国際慣行上不当でございますので、その問題とは別に、やはり抗議をこちらのほうから書面で厳重に出してございます。

[036]
日本社会党(社会民主党) 戸叶里子
書面での抗議に対して、何ら向こうは誠意を示しておらないのですか。それはどうなっておりますか。

[037]
政府委員(外務事務官(アジア局長)) 後宮虎郎
現在までのところ、まだ回答を得ておりません。

[038]
日本社会党(社会民主党) 戸叶里子
いままでの例で、公船が不当尋問を受けて、そしてそのままになったというような例が一体世界にあるかどうか、この点を念のためにお聞きしておきたいと思います。

[039]
政府委員(外務事務官(条約局長)) 中川融
世界の例は、私も詳しく存じません。しかし、公船等でありますれば、たとえ万一よその領海に入りましても、それを力によって押えて尋問する、あるいは船長を自分のところへ連れていくようなことは、やはり国際法上許されないところであると考えます。したがって、やはり韓国の警備艇のとりました行為は不当な行為である、かように考えております。

[040]
日本社会党(社会民主党) 戸叶里子
不当な行為であり、しかも公船がそういうふうな目にあったという事実があるにもかかわらず、その問題の解決をも待たずにどんどん日韓会談を進める、たとえば漁業問題にいたしましても進めていくということが一体許されていいものか。そのことだけでも私は重大な問題じゃないかと思いますが、外務大臣はどういうふうにお考えになりますか。

[041]
外務大臣 大平正芳
この前の本委員会でも、楢崎委員でございましたかの質問に対して、私の心境を申し上げたのでございますが、日韓の間の問題というのは、容易ならぬ問題だと思うのでございます。さればこそ、10年交渉で、いままで結実を見ずにいるわけでございまして、この問題は、国際法の準則で割り切るとかいうことで片づくものであれば、とうに片づいているはずでありますが、この問題は、幅の厚い、いろいろむずかしい問題をかかえている日韓の間の関係でございます。

しかし、わが国といたしましても、また韓国も同様だと思うのでございますが、こういう不安定な、不自然なことがいつまでも続いていいものかというと、私はそう思わないのでございまして、朝鮮海峡でいろいろな拿捕事件が頻発するというようなことは、どなたが考えてみても不幸なことでございます。

したがって、政治の問題といたしまして、こういったトラブルが起こらない状態、朝鮮海峡が平穏に返るという状態を庶幾いたしまして努力してまいることは、政治の責任として当然だと私は思うのでございまして、こういうような問題を根本からただしていくには、何といいましても、両国の間の尊敬というか、信頼というか、友情と申しますか、そういうものが打ち立てられなければならぬと思うのでございます。したがって、そういうところに焦点を合わせて私どもは日韓の問題を考えておるわけでございます。

公船取り調べ事件というもの、これはいま事務当局からもお話がございましたように、国際慣例上許されないことでありまして、それはそれとして処置しなければなりませんが、同時に、日韓の間にこのような不自然な状態をいつまでも続けて、それでいいのだという理屈には私は賛同いたしかねるわけでございまして、忍耐をもちまして、日韓の間の信頼の回復という点に、どういう事件があろうとも、事件があればあるほど私は勇気を鼓してやってまいって、この不幸な状態を早く是正してまいる必要があろうに存念いたしておる次第です。

[042]
日本社会党(社会民主党) 戸叶里子
外務大臣が日韓の関係を正常化したいというふうな非常な切なるもののおありになることは、たびたび委員会でその御意見を述べられておりますからわかりますけれども、しかし、私どもがいま考えましたときに、そういうふうな正常な関係にしていくその段階において、外務大臣の立場としてそうお考えになりましても、何とかうまくやっていこうというときに漁船を拿捕したかと思うと、今度は国際法上許されないようなことをされて、それでもなおかつ、その問題を片づけないで日韓会談を進めていくということは、これは私は国民が納得できないことだと思うのです。

いやしくも、先ほど来言われておりますように、巡視船は公船です。そして、よその国でもこういうことが起きたら、私は大衝突になると思います。ところが、そういうふうなことが行なわれても、なおかつ、それを忍耐しながら、何をされても忍耐をしながら、日韓の間をうまくするためにはというような行き方では、国民は納得できないと思うのです。

この問題をなぜ先にお片づけにならないのですか。この問題をなぜはっきりさせないのですか。そうじゃなくてどんどん前向きに進んでいくなんということでは、私は将来が思いやられると思うのです。この問題はもっと何らかの形で措置をしていただきたいと思いますけれども、これに対してもう一度外務大臣の御所見を伺いたい。

そういうことも忍耐して、がまんして、そうして、それはまあいつの日か何とか向こうが反省するだろうくらいに甘く考えて、どんどん漁業協定なり何なりを進められようとするのか。そうなったら、私はあとでまたどういうことが起こるかわからないと思いますけれども、そういう点をもう一度念のために外務大臣に伺いたいと思います。

[043]
外務大臣 大平正芳
冒頭にも申しましたように、日韓の間の問題というのは、条理で割り切るということができれば簡単なんですけれども、容易ならぬ問題なんでございます。したがって、問題はそういう重い問題であるということを頭に置いてやらぬと、なかなかこれは理屈どおりに片づくというようなものではないということは、私が先ほどあなたに申し上げたとおりなんでございます。それはおわかり願えるだろうと思うのであります。

しかし、戸叶さんのおっしゃる、この問題をうやむやにせずにきちんとしてということ、せっかく正常化の交渉が行なわれているときにこういうことをやるのだから、これはちゃんと始末してというその気持ちもよくわかります。正常化の交渉がある間にもそういう問題がたびたび起こっておるという事実、これは私は日韓関係の特殊なむずかしさを示しておると思うのでございます。したがって、あなたが言われるように、この問題をうやむやにしておこうなんて毛頭思っておりません。こういう問題をきちんと片づけなければなりませんし、また、それをきちんと片づけるためにも、相互の間に、もっとフランクな態度、フランクな精神が芽ばえてこないといかぬわけでございまして、外交の問題としてそういうこともあわせてやりながら解きほぐしていこうと思っておるわけでございます。

これをあいまいにしていこうなんという横着な気持ちは毛頭ないのでございます。事柄自体が非常にむずかしいのだということをお考えいただきまして、それには相当しんぼうも要るのだということで御理解をいただくよりほかになかろうと思っております。