昭和39年05月26日 参議院 運輸委員会

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政府委員(海上保安庁長官) 今井榮文
ただいまお手元に資料をお配りいたしましたが、5月の13日に起こりました巡視船「ちくご」の韓国警察艇による連行事件の概況につきまして御報告を申し上げたいと思います。なお、「ちくご」は15日の午前10時ごろ門司港に入港いたしてまいりまして、私どものほうも直ちに関係官を派遣して詳細に船長から当時の状況等も聴取してまいっておりますので、そういった面につきましてあわせて概況の中で御説明をいたしたいと思います。

事件が起こりましたのは5月の13日の昼12時55分でございますが、場所は、お手元の資料の次のページにございますように、李ラインの中の、しかも非常に韓国の木浦に近い、島嶼の多い海域でございまして、これにございますように、七発島という島がございます。その島に灯台がございますが、この七発島灯台から約5マイルの沖合いという所でございます。

概況について簡単に御説明しますと、13日の12時55分、巡視船の「ちくご」がこの七発島灯台沖合い約5マイルの点におきまして漁船保護のための行動中に、韓国の警察艇――これは、いつも新聞に出る、わがほうの漁船拿捕に行動いたしております海洋警備隊の警備艇とは全然別のものでございまして、後ほどに出てまいりますが、全羅南道の警察局に所属するところの警察艇でございまして、ハンサン号という約20トンの、スピードは約30ノット出るという高速の警察艇でございます。これが、実弾を装てんした機銃2丁を「ちくご」に向けながら接近してまいりまして、それに同乗中の全羅南道警察局警備課長が「ちくご」に移乗して、「ちくご」が現在韓国の領海内におるということを主張いたしたのでございます。

これに対しまして、「ちくご」船長は、先方が武器をこちらに向けながら接近してまいったというふうな関係もございまして、一応その警備課長の移乗を認めまして、その警備課長に対しまして、われわれの位置は現在七発島灯台西方5マイルの公海上である、したがって何ら領海侵犯をしておるわけではないということを強く主張いたしたのでございます。

警備課長は、とにかく話し合いをするために、大黒山島――これは七発島灯台から西方に少し離れました所で、この地図にも書いてございますが、この大黒山島に基地がございます。この大黒山島まで入港するように要請してまいったのでございますが、「ちくご」船長がその入港を拒否いたしたところ、沖合いまでぜひ同行してほしいということを重ねて要請してまいったのでございます。で、先方から直接聴取したその当時の船長の判断といたしまして、できるだけまず事態を早く解決するためには、大黒山島沖合いまで同行するもやむを得ないというふうな決意をいたしまして、「ちくご」船長が一応これを了承して、大黒山島の沖合いまで同行をいたしたのでございます。それが、これにもございますように、約2時45分、大黒山島の北東1マイルに到着して、話し合いを続行いたしました。

しかしながら、なかなか話し合いがつかないと同時に、先方が、現場付近の潮流が非常に激しいために、接舷して話し合いをするのは非常に危険であるから、ぜひ鎮里へ――鎮里というのは大黒山の基地になっておるわけでございます。その鎮里港に入港するよう重ねて要請があり、船長としても、その潮流の関係その他から判断いたしまして、やむなく鎮星港へ入港いたしたのでございます。その間、警備課長がおりて、かわりに自動小銃をもって武装した警官2名が、「ちくご」の乗員の拒否にかかわらず、強引に船に乗り込んできたということでございます。

で、その後、鎮里港において再び警備課長と「ちくご」船長が話し合いをいろいろいたしたのでございますが、先方は平和ラインつまり旧李ライン内はすべて韓国の領海だというふうな主張をいたしまして、領海は3海里だというふうな「ちくご」船長の主張と全く平行線で、全然話し合いがつかないという状態でしばらくおったわけでございます。その後、この警備課長が上司に連絡をとる必要があるということで一たん下船をいたしまして、それから、これにもございますように、再び同日の21時15分に参りまして、問い合わせ中であるという連絡をいたして、さらにまた上陸いたしてきたわけでございますが、次いで22時30分、これにございますように、上司と連絡したところが、本件解決は地元警察にまかせろということであったということで、日韓会談中でもあるからなるべく領海内には入らないでもらいたいというふうな発言をいたして、もう帰ってもけっこうですということになったわけでございます。

これに対して、船長としては、日本の巡視船は漁船保護の目的で今後もこの方面に行動することがあるということは知ってほしい、しかしながら領海を侵犯したりするというふうなことはわれわれとしてもしないつもりであるということを発言した。それによって一応交渉が終わったわけでございまして、直ちに船長は出港の準備をいたしまして、22時40分に鎮里港を出港いたしまして、翌朝の15日の10時30分に門司に帰港いたしたということになっておるわけでございます。

これに対しましては、鎮里港に同行して「ちくご」と先方との話し合いをしていただく時期におきまして、私どものほうとしては事態を非常に重大視いたしまして、外務省にお願いをいたしまして、外務省から直ちに韓国代表部を呼んで再三の抗議をしていただいたわけでございます。さらにまた、この資料にもございますように、5月の21日に口上書によって非常に強硬な文書を先方に送っていただいております。その内容は、責任者の処罰、それから陳謝、それから再発防止という点について注意を喚起いたしておるわけでございます。

以上が大体の経過でございます。